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『時には方向転換が最適解』

2026.1.10

みなさん、こんにちは。講師の宮下まりこです。

今日は、先日行ったコンサルでの経験をご紹介します。

患者さんは40代前半の女性で、中学生の息子さんがいらっしゃいます。ご本人は3級咬合、いわゆる「受け口」で、院長先生からは「矯正コンサル」と「補綴コンサル」を依頼されていました。
しかし、カウンセリングルームに入ってきたその方の表情を見た瞬間、私は予定していた話の流れを大きく変えることにしました。


その表情は一言でいえば「あきらめ」。
「また同じことを言われるんだろう」「正直、面倒だな」──そんな気持ちが伝わってきたのです。

そこで私は、まずこの方が関心を持てる話題を探ることにしました。


お子さんのことなら興味を示してくださるだろうと考え、「受け口は遺伝する場合もあるのですが、ご家族にも同じような咬み合わせの方はいらっしゃいますか?」と質問しました。
すると予想通り、「息子も同じで、矯正しているんですよ」とのお答え。


私は心の中で「よし!」と頷きつつ、この方にとって今一番大切なのはご自身よりも息子さんなのだと感じました。そこで矯正や補綴の説明に入らず、まずは息子さんのことを中心に雑談を重ねていきました。

ある程度お話を伺ったところで、私は歯の役割や、3級咬合では臼歯から崩壊していくリスクについて説明しました。そして「矯正は難しくても、これから先の人生で息子さんの成長を見守るために、せめて補綴だけでも長持ちするものを選んでみませんか」と提案しました。
すると患者さんは感動したようにこう話してくださいました。


「自分の咬み合わせは悪い、治さなければならない──そう言われ続けてきました。でも、歯に役割があることや、臼歯を失ったらどうなるのかなんて、長年歯医者に通っていて初めて知りました!」
さらに「咬み合わせの話をされるたびに、自分のせいではないのに責められている気がしていました」と打ち明けてくださいました。


「それはお辛かったですね」と声をかけると、驚いたように私を見つめ、しばらくして
「子どもにお金がかかるので自分の矯正はどうしてもできないけれど、私のことを考えて提案してくれていることが本当に嬉しい」と涙ぐみながら言われました。
最終的に、その方は自費補綴を選択されました。


この経験から改めて感じたのは、カウンセリングに入る前に準備をしておくことで、患者さんの表情や反応にしっかり気づけるということです。患者が何を求め、何を嫌がっているのかを敏感に察知し、それに合わせて柔軟に対応できれば、心に届くカウンセリングにつながります。


忙しい日々の中で、事前準備を負担に感じることもあるかもしれません。
ですが、患者さんにとってその一度のカウンセリングが人生を変えるきっかけになることもあります。

私たちTCの役割は、一方的に説明することではなく、「患者さんのため」を一番に考えること。
これからもその姿勢を大切にしていきたいと思います。